どんな山より高い巨人は欲しいものに何にでも手が届きました。ある日彼に夜空に浮かぶ月をおねだりする人が出現しました。しかし取れません。巨人はあれを夜空に描かれた絵に過ぎないと確信しました。
「月は実在しますよ」
「おまえは月が実在することを確認したのか?」
「いいえ」
「俺は手を伸ばして実在しないことを確認したぞ」
巨人は一生月は存在しないと信じて死にました。
彼の巨体を埋葬できる土地は地球上になかったので、月面に専用墓地を作って埋葬されました。
(遠野秋彦・作 ©2016 TOHNO, Akihiko)